『スーパー・パティシエ 辻口博啓の新味和菓子』 辻口博啓・著
辻口博啓さんといえば、言わずと知れた洋菓子の名匠だ。
しかし今回の本を手にするまで、辻口さんの
ご実家が和菓子屋で、一度は閉めること
になってしまったお店を再び辻口さんが
再開されたことは知らなかった。
この方は洋菓子のプロであるのと同時に、
その心の中には和菓子の確かな感性も
備わっているのだろう。
先日、図書館で書評させていただく本を探していたのだが、
そこには洋菓子のレシピ本が大半で、
それより少ない和菓子の本は難しいものや
分かりづらいものが多かった。
そんな中、シンプルな装丁と簡潔な
題名のこの本が目に入った。
『スーパー・パティシエ 辻口博啓の新味和菓子』。
パティシエである辻口さんがつくる和菓子とは
どんなものだろう。
新味和菓子とはどういうことだろう。
そんなふうに考えながら表紙を開けば、
そこには見慣れたお菓子の名前が並んでいた。
どら焼き、ねりきり、水ようかん…。
どれも和菓子では定番のものばかり。
しかし、辻口さんの手によって生み出された
それらは全く新しいものだった。
特に驚いたのは『ゆずとマンゴーの水ようかん』。
水ようかんと聞いて思い浮かぶのは
やはりこし餡を使ったものや、
抹茶や桜など和の素材を使ったもの。
しかしこれにはゆずパウダーと
マンゴーのピューレが入っている。
和菓子を作る者では想像もつかない
その組み合わせに脱帽した。
それからすこしの工夫でこんなにも変わるのか
と目を見張る思いだったのが、この本の
『ハイビスカス』『ジャスミン』『ローズ』の
三種類のねりきり。
見た目は確かに和菓子の技術を使った
ねりきりなのだけれど、
中にはそれぞれの花を使ったゼリーが包まれているのだ。
モチーフの形を再現するということは
和菓子ではよくあることなのに、
このようにゼリーを加えて香りまで
付けるというのは考えたこともなかった。
”変わらないとは変化し続けることだ”
とはどこかで聞いた誰かの言葉。
このように和菓子以外の様々なお菓子が
全盛となっている今、
新しい色を取り込んだ、それでいて
変わらないものはしっかりと残っている、
そんなお菓子が
人々から必要とされているのかもしれない。
【文責 加部 さや】
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辻口博啓・著 ソニー・マガジンズ
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