『二郎は鮨の夢を見る』 デヴィッド・ゲルブ監督

生きる伝説と言われる鮨職人
その技と志が
親から息子達へ
師匠から弟子たちへと
伝承される職人仕事の教科書


「和菓子の本棚」に、和菓子でも本でもない
鮨職人の映画を登場させたことを、
まず、お詫びしたいと思います。

和菓子屋の繁忙期は朝が早いです。
毎朝3時に起きて、
作り立てのお菓子を9時には店頭に並べます。

心が折れそうになるほどの
疲労感に襲われないように、
毎朝、毎夕、通勤の車中でこのDVDを見ています。

そのたびに魂が震え立ち、
身体が気迫に包まれてゆきます。

この映画を撮影したのは、
撮影時26歳のNY生まれの青年です!!
まったく外国人が撮影したとは感じさせない
完璧なドキュメンタリーに仕上がっています。

NHKのプロフェッショナルと比べても、
映像の美しさ、BGMの素晴らしさ、
取材対象選定の的確さ、
全てに渡って上回っていると思います。
言葉の壁や人脈を考えたら、奇跡的です。

「情熱」
素晴らしい鮨職人を、
職人仕事の伝承を、
世界中の人々に紹介したいという、
熱い情熱が奇跡を起こしたんだと思うのです。

また、築地市場のマグロのセリの場面を、
冬場に一度断られたにも関わらず、
決してあきらめずに交渉を続け、
翌夏に許可を受けたことから、
冬しか見られない「タコ」のマッサージのシーン、
夏しか見られない「鰹」を藁で炙るシーンなど、
夏・冬両方の鮨の魅力を堪能することができています。

デイヴィッド・ゲルブ監督の情熱の源は、
NYメトロポリタン・オペラ総帥である父、
元NYタイムス編集局長で、現役の作家である祖父から
脈々と受け継がれたもの。
オープニングテーマのチャイコフスキーを奏でている、
ヤッシャ・ハイフェッツも血族というのですから驚きです

そんな境遇から、
生きる伝説と呼ばれる鮨職人の技と志を、
本人だけでなく、次代にどのように引き継いでゆくのかが、
この映画の重要なテーマとなっています。

長男の禎一(よしかず)さんは昭和34年生まれ。
撮影時は50代前半、
とっくに自分が主役でも不思議のない年齢です。
しかし、親父は伝説の鮨職人。
マスコミの取材は父親に集中します。

そんな中、この映画の撮影中も、
常に親父を立て、裏方に回り、
親父が最高の仕事ができるようサポートします。
仕事中は父親に敬語で指示を仰いでいます。

二郎さんのもとで16年間働き、
独立後三ツ星に称された水谷八郎さんも、
「せがれが可哀想だ」と心配しきりです。

しかし、デヴィッドさんは、
禎一さんこそ、真の主役だと見抜き、
撮影を重ねるのです。

築地への仕入れ、弟子への教育、
毎日の海苔焼き、鰹の藁火焼き、
すべて禎一さんの仕事です。

撮影中にミシュランの覆面調査員が
たまたま来店していたことが判明。
後日映像を解析すると、
握っていたのは禎一さんだったのです!

特典映像の音声解説で、
このエピソードを祖父に伝えたところ、
「鳥肌が立つほど感動した」
とデヴィッドさんは語っています。
二郎さんの技と志は確実に伝承されているのです!!

さらにもう一つ驚きのエピソードが。
映画の中では修行中の弟子達にも、
丁寧な取材が行われています。

一番弟子・中澤大祐さんの、
「卵焼き」のエピソードは泣ける話しです。
撮影中に「そろそろ独立を」と話していたので、
その後がとても気になって検索してみたところ…

なんと、NYで独立しているではありませんか!!
驚くことに、結婚して4人の子持ち。
よく、修行や渡米に家族の理解があったなと、
映画と同じくらい驚きました。

この映画は、
単に伝説の職人の仕事と哲学だけでなく、
その技と心が次代に繋がっていくことを感じることができます。
日本人の誇りである職人仕事の文化が、
極めて美しい映像と音楽で紹介されています。

願わくば、「和菓子職人」の世界も、こうありたいものです。
私も微力ながら
次代への懸け橋になりたいと強く思います。

【文責 宮澤 啓】

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