『和の色のものがたり 歴史を彩る390色』 早坂優子・著


日本にはこんなにもたくさんの色がある。

日本には春夏秋冬があり、縦に長い日本列島では北と南では
同じ季節でも違う景色が見られる。その為か日本人の色彩感覚は
とても繊細で、文化にも色濃くそれが現れている。
その代表的なものに着物や日本画といったものがある。
和菓子もその一つと言えるだろう。

今回はいつもの和菓子が主題の本ではなく、和菓子を作る上で
欠かせない”色”についての本を紹介したい。

和菓子の美しさといえば、菓銘やモチーフの表し方など幾つもの
要素があるが、なんといっても一番に目を引くのはその色彩だと私は思う。
洋菓子などとは違い、それは決して目を引くような派手さはないけれど、
淡く、繊細な色使いに日本人の美意識や奥ゆかしさを感じるのだ。
そしてその色合わせには自然を写しとった日本ならではの
和の色が使われていることが多い。

古くから日本では外国の文化を取り入れながら
その装束を少しずつ変化させ、日本ならではの色彩感覚を作り上げてきた。
十二単などの着物に見られる色合せは日本人の遊び心も垣間見え、
その種類の豊富さに圧倒される。
p26,27では源氏物語に登場する姫君たちに
光源氏が贈った着物の合わせ方が紹介されている。
光の君は女性たちの顔立ちや思い入れの強さに合わせて
着物を選んだというからそのセンスの良さと気の利かせ方に脱帽だ。
またp114~p117では季節ごとの”かさねの色目(着物の合わせ)”を
見ることが出来る。
梅やすみれ、若菖蒲など季節を代表する草花が絶妙な
色の組み合わせで表現されていて、まさにそのものを
見ているかのようでとても美しい。

さらにその組み合わせを作る色には由来があり、時代によって
華やかだったり、澁みがかった色だったりとその時々の人々の
好みや風習も現れている。
和菓子が今の形になった江戸時代(p44~)では、茶色や鼠色が
混ざった色合いの着物が好まれ、また贅沢禁止令により
紅色や紫色が使えないとくれば、それに似た
似紅(にせべに)”や”似紫(にせむらさき)”といった色を作り出すなど、
人々の色に対する憧れを見ることが出来る。
和菓子に美しい色合いが使われるようになったのは
こういった背景があるのだろう。

有職菓子御調進所 老松さんのホームページ、菓子の歴史には
こんな文が載っている。
(http://oimatu.co.jp/product/history/より引用させて頂きました)
若い頃、今日作る菓子の色合いの配合について先輩に
質問するとよくおこられたものだ。
「京都をとりまく山端の色の変化に応じて、昨日より今日、
今日より明日へとクチナシの黄色を足す。山をよく見ろ」
同じ菓子でも、私たちは朝つくるもの、夜作るもので色を替える。
このような加工食品は世界にひとつである。” 

自然の色は常に移りゆくもので、一日として同じものはない。
そんな日々の変化を感じ取り、食べて下さる方たちに伝えていけたら、
職人としてこんなに嬉しいことはない。


【文責 加部 さや】


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『和の色のものがたり 歴史を彩る390色』
早坂優子・著 視覚デザイン研究所


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