『3つの生地でつくる 和菓子のおやつ』 中島久枝・著



”つくって、食べて、楽しんで”
そんな言葉から始まるこの本を読んだ時、
私はどこか懐かしさを感じた。

思い出したのは、幼い頃の記憶。
生まれも育ちも群馬県である私の家では、
よく郷土料理の”すいとん”が作られていた。
群馬県人なら何度か食べたことがあると思う。
私は何故か昔からこの料理が大好きだった。
すいとんといえば小麦粉を水で溶かして
野菜を煮込んだ汁に加えるという方法が一般的だが、
私の家では小麦粉を固く練って
団子のようにすることが多かった。
力強く練った小麦粉のみのすいとん生地が出来上がると、
母はいつも私たち兄弟を呼んだ。
私たちはそれを待ってましたとばかりに台所へ行き、
こねあがったばかりのすいとん生地を粘土のようにして
様々な形を作った。
動物や綺麗な花の形を作る姉。
奇想天外な謎の塊をいくつも生み出す兄。
そんな兄弟たちの影響を受けて、私も様々な形を作った。
ただの白い塊が手を加えることで
色々なものに変わる。
それが楽しくてたまらなかった。
もちろん食べるのが一番の楽しみであったのは
言うまでもない。

この本にはそんな作る楽しみ、
食べる楽しみが詰まっている。
大福や団子などの餅、どら焼き、白玉の三種類に
分けられたレシピには、
写真を見るだけで食べてみたい、
作ってみたいというような気持ちが湧き上がる。

”うさぎのあんず大福”は、
名前の通り可愛いうさぎがこちらを見ている。
中には干したあんずを混ぜた粒餡。
ひとくち食べるごとにうさぎの顔は消えていくが、
大福の表す柔らかな曲線がいつまでも
うさぎの余韻を残してくれる。

”アールグレイといちごのどら焼き”
これは名前と見た目のギャップが面白い。
どら焼きと聞けば、普通はこんがりした茶色の丸い
焼き菓子を思い浮かべる。
しかしこれは紅茶の茶葉を混ぜたどら焼き生地を、
クレープのように薄く焼いて
いちごとチーズを挟んでいるという具合。
和菓子であるのに、洋菓子の見た目を持った
このお菓子に、食べる人は皆ワクワクした気持ちに
なることだろう。

最後は”バジルとアーモンドの白玉おかき”
白玉粉を使うのは白玉団子だけではなかった。
著者の中島さんは白玉団子のイメージが強い白玉粉を、
イタリアの風味漂うおかきへと変身させたのだ。
バジルとオリーブオイルを使うという
今までのおせんべいなどからは想像もつかない
斬新なお菓子。
新しいものを作っていく楽しみが
このおかきに込められている。

日々の生活では時間に追われ、
つい作る楽しみや自分の作ったものを食べる
楽しみを忘れがちだ。
そんな時、この本を手にとって
忘れかけている”楽しさ”を
思い出してみてはどうだろうか。


【文責 加部 さや】


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『3つの生地でつくる 和菓子のおやつ』
中島久枝・著 東京地図出版株式会社



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