2015年7月30日木曜日

『和菓子人』 佐々木勝・著

その人の生き様が菓子に出る
菓子は人なり
師・佐々木勝の波乱万丈の半生記

初めて師匠のお菓子を食べたのは、
22歳の夏のことです。
女性の販売員が多い中、
このお店の販売員は皆男子でした。

師匠の腕と人柄を慕って、
全国から修業希望者が集まっているといいます。

人一倍不器用な私は、。
大学4年の夏になっても、
和菓子の道に進むべきかどうか迷っていました。
冷茶とともにだされた「水羊羹」。
凛とした気品を湛えた薄紫の色合い。
口に含むとすっと消えてしまう
儚いほどの口溶け。
食べ終わった後に、
小豆と和三盆の香りだけが、
上品に漂っています。

こんな水羊羹を食べたのは、
生まれて初めてでした。

「こんなお菓子を作れるようになりたい!」
数十軒の和菓子店を食べ歩いた私が、
もっとも憧れ、惚れ込んだのが、
菓匠京山・佐々木勝さんの菓子でした。

「すでに来年度の希望者は一杯」
とお断りされたのを、
頼み込んで弟子入りさせて頂きました。
先輩、後輩含めて10人の若者が、
ほとんど機械も使わず、
職人仕事でお菓子を作り上げてゆきます。

業界屈指の名人と一緒に仕事はできても、
お役に立てたと言うには程遠い状況。

何の仕事をしても師匠の半分以下。
師匠の仕事ぶりは段取りも含めて凄すぎて、
天才だからできるんだと在職中は思っていました。

そんな師匠が創業30周年、還暦の記念に、
この本を出版してくださいました。
前書きには、こうあります。
「菓匠京山在職中、一生懸命仕事に勉強に励んだ皆さんに、
師匠として何か贈りたいと思い六十年の歩みを本にしました。」
弟子へのエールを込めた一冊です。

読んで改めて感じたことは、師匠の天才ぶりではなく、
並はずれた苦労人であり、努力家だということです。

終戦直前の樺太。
漁師の4人兄弟の末っ子として師匠は生まれます。
生まれて数日で終戦となりますが、
ロシア軍の樺太進行で、
一家は命からがら北海道に逃げることに。

しかし、その際の怪我が原因で、
父上は36歳の若さで亡くなってしまいます。

女手ひとつで4人の子供を育てる母上。
そんな母を少しでも楽にしてあげたいと、
手伝いに奔走した少年期。

冬の通学は、
1m先も見えないほどの強烈な吹雪の日でも、
4kmの山道を休まず通い続けたと綴られています。

現代に生きる私達からしたら、
壮絶ともいえる幼少期を過ごしたことが、
師匠の精神と肉体を鍛え上げ、
底力となっていたのです。

和菓子の道に進んだことも、
才能があったからとか、なりたかったからではなく、
早く働いて母を楽にしてあげたい、
その一心からでした。

和菓子に関しても、
自慢話的なことはほとんどなく、
泣くほど怒られた失敗談まで、
隠すことなく語られています。

もともと真面目な努力家ではあった師が、
運命が変わるほどの大きな影響を受けたのは、
最初に出会った和菓子職人が、
「高山良介」さんであったこと。

P.37 すべてにおいて師匠以上の人に会ったことがない

この一文が佐々木さんのお人柄を表しています。
私も、佐々木さんを通して、
小樽の高山先生の技や心に触れている
と感じることがあるほどです。

本の中には、小樽の高山さんをはじめ、
たくさんの方から文章が寄せられています。
それらを読むほどに、
師の人間的魅力を再認識します。

さらに特筆すべきは、
具体的な数値、数量が克明に記録されている点です。

修業先「たちばな」さんの盛況ぶりは、
こう書かれています。

・お節句の柏餅はセイロ400枚、15,000個!
・人気商品パンセは1日10,000個製造!
・社長は当時32歳の若さ!
・作れば売れるウチは職人にとって楽な店だ!発言
・入社時14人だった従業員は翌年には倍の28人に

記録は多岐にわたり、
お世話になっていた時のお給料の金額から、
「京山」を開業するためにかかった具体的な費用、
その資金繰り、新装開店セールチラシの費用から、
具体的な売上げ、商品単価など、微細に渡ります。

また、普通の人なら書かないであろう、
新装開店直後のヒマな様子(妻と交代で昼寝)、
初めての講師体験の失敗談、
幼少期と青年期のマラソン秘話など、
恥と思う話でも隠さずに書いて下さっています。

奥様との恋愛、結婚のお話し、
結婚7年目で授かったお子様のお話し、
さらにその子供たちから父への手紙まで掲載されていて、
何度読んでも、胸が熱くなります。
まさに師匠の口癖である、
「その人の生き様が菓子にでる」
「菓子は人なり」
を実感できる書籍です。

修業時代の経験と、この書籍を通じて、
少しでも師匠の技と心を受け継ぎたいと思い、
何度も何度も読み返している、
心の燈台のような本です。


いい菓子を作ろうと思ったら、
人間を磨かなきゃいけない。
修業時代、何度も聴いた師匠の言葉。
この想いを菓子に込めて、
次代を担う若き職人とともに、
これからも精進を重ねたいものです。

【文責 宮澤 啓】

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『和菓子人』
佐々木勝・著 / ㈱明光企画制作

※ネットや書店では流通していません。
私は師匠から何冊か譲っていただいて、
新人さんへのプレゼントにしています。
本当に宝物です。


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