2015年12月3日木曜日

『全国和菓子風土記』 中尾隆之・著

旅行記者歴20年(出版時)の著者が
実際に食べておいしかった和菓子の中から
創業が明治以前の老舗を中心に厳選して紹介

この本を読むまで、
自分が和菓子について、
かなり詳しい方だと思っていました。

しかし、その自信は、
この本を読めば読むほど
思い上がりだったと
反省することになります。

和菓子といっても
切り口は様々ですが、
「全国47都道府県の名物」
実際に食べた上で
歴史を添えて紹介しています。

たとえば「仙台」。
妻の実家が仙台なので、
仙台の菓子については
それなりに詳しいと思っていました。

「駄菓子」に風格ある名店が多いことに
気がついてはいましたが、
それ以上調べたことがありませんでした。

一番の老舗は「熊谷屋」さんで
300年以上の歴史があるとのこと。
「石橋屋」「日立屋」「中鉢屋」
「おきやな」「ご藤」
すべてを食べ歩いているのです!

時には店頭で、時には工場で、
お菓子や職人仕事を
味とともに精緻に書かれています。

本書は「歴史ある老舗」
を中心に書かれているので、
「白い恋人」「萩の月」「東京バナナ」
といった、現代のヒット商品には
あえて触れていません。

それでも300種類!
すべて現地を訪れて、店主に話を聞いて、
実際に食べたお店とお菓子ばかりです。

これだけのことを自分でやろうと思ったら、
いったいどれだけの時間とお金がかかることか!

マップルで有名な昭文社さんの本ということもあり、
一流のガイドが「老舗の和菓子」というテーマで、
全国の魅力を紹介してくださる本です。
主役は和菓子でもあり、
その土地そのものでもあります。

旅に出る際には、
旅行ガイドにプラスして持ち歩きたい一冊です。

【文責 宮澤 啓】

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2015年11月11日水曜日

『なごみのまんじゅう手帖』 佐々木ルリ子 菅原すみこ・著



日本全国のまんじゅう大集合!!

まんじゅう、饅頭、万頭・・・。書き方は色々あれど、日本人なら
誰しも”まんじゅう”と聞いて頭に思い浮かべるものがあるはずだ。

”モクモク上がる湯気に蒸されたふかふかの皮の
手で持って大きすぎない1つの中に、まったりと甘い餡が包まれていて、
一口食べればまさに『和む』という言葉がふさわしいお菓子。”
私のイメージはそんなところ。

近所の和菓子屋さんだったり、観光地や温泉地、
ちょっとした集いの場に、まんじゅうはちんまりとその存在感を主張している。

そもそもまんじゅうの定義ってなんだろう。
ふと思い立ち改めて調べてみると、
饅頭は、小麦粉などを練って作った皮で小豆餡などの具を包み、蒸した菓子。
中国の饅頭が変化してできた和菓子の一種。(ウィキペディア参照)
とある。つまり、おおまかに言うと皮と具があれば
ほとんどがまんじゅうといっても差し障りないということだ。
だからだろうか、日本全国にはまんじゅうと名のつくものがそこら中に
あるといっても過言ではない。

そんなまんじゅうを北は北海道から南は沖縄まで
一冊に集めたのがこの本、『なごみのまんじゅう手帖』。
知っているものから知らないものまで、まんじゅうの魅力が
ぎっしりと詰め込まれている。

揚げまんじゅうや栗まんじゅう、チーズを使ったものなど、
種類別に分けられているのでとても読みやすい。
というかむしろ分けられていなければ混乱してしまいそうなほど
まんじゅうの情報でいっぱいだ。

さらに本書では女性ならではの観点で見た
まんじゅうの可愛さというようなものも全面に押し出されている。

私はつい食べるのに夢中になって忘れてしまいがちな
まんじゅうの包み紙やシール(p24,p46)。
これらはまんじゅうの作り手の個性が表されていたり、売っていた
場所の名物が描かれていたりして、まんじゅうだけでなくその背景を
想像する楽しみにもなったりするのだ。

そしてこの本で1番のお気に入りはp102からの
”わたしの好きなまんじゅう”というくだり。

筆者のお二人が”たくさんの人におすすめのまんじゅうを
挙げていただきました”とするこのページには、お二人のご友人や
お知り合いの方なのだろうか、いろんな人々が各々の好きなまんじゅうを手に、
にこにこと満足気にしている写真が掲載されているのだ。
それぞれのコメントも付いていて、なんだか見ているこっちまで
嬉しくなるようなそんな素敵な紹介ページになっている。

読み終わる頃には私もすっかりまんじゅうが食べたくなってくる。
次あそこへ行った際にはあのまんじゅうを買って食べよう、
少し足を伸ばしてあそこへも寄ってみよう。
そんな風にいつの間にか意識の隅にある”まんじゅう愛”を
呼び起こしてしまうそんな一冊。

ふっと表紙を見てみれば、青と白の水玉模様も
まんじゅうに見えてくるような気がしないでもない。

【文責 加部 さや】


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『なごみのまんじゅう手帖』
佐々木ルリ子 菅原すみこ・著 河出書房新社


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2015年10月6日火曜日

『美食の王様 スイーツ』 来栖けい・著

25歳にして行ったお店の数は6,000軒以上!
強靭な胃袋と鋭敏な味覚とあくなき好奇心から
「食べる天才」と称された著者が
珠玉の和洋スイーツをランキング形式で紹介

私も来栖さんに負けないくらい甘いものが大好きです。
この業界に入ってから、
評判の良いお店には直接行ってみる、
噂のお菓子は必ず食べてみる、
伝説の職人には直接会ってみるよう心がけています。

そうはいっても、来栖さんの行動ぶりは尋常じゃありません。
本書を発行した時点で6,000軒の食べ歩き実績。
36歳になった現在では20,000軒を超えたようです!

人がモノを判断するとき、
必ず比較する対象が必要です。

○○より美味しい、
という積み重ねが味覚を磨くと思うのです。

本書の前書きで、来栖さんはスイーツを
「1日100個単位で食べ尽す」
こともあると記しています。

これは頼まれてできることじゃありません。
食べることが好きで好きで、
好奇心に突き動かされて、
取材とか仕事じゃなくて食べ尽すわけです。

ゲーム好きの少年が、
朝から晩までゲームに夢中になるように、
朝から晩まで食べ尽す。
これこそが、来栖さんのスタイルです。
(写真は3rdplacecafeさんのブログより)

圧倒的な件数のお店を、
ジャンルを超えて食べ歩いた著者の味覚は、
読者にとって大きな宝物だと思います。

たって、自分で食べ歩こうと思ったら、
時間もお金も物凄くかかりますから。(笑)

そんな何千件も食べ歩いた中から、
究極の和菓子・洋菓子を、
店と商品別々にランキングで紹介しています。
(ランキングこそがこの本の肝なのでご紹介は控えます)

本書は文章のみ、写真なしですが、
出版当初はインターネットと本書は連動していて、
本書のお店やお菓子の写真は、
ネット上で確認できる画期的な本でした。
(現在はネットでの紹介はされていません)

私もこのランキングにどれだけ助けられ、
幸せな想いをしたか数え切れません。

味覚は人それぞれですし、
和洋菓子店で感動するのは、
味だけではないファクターがたくさんあります。

商品・店舗・接客サービス・歴史・地域客層など、
どこに焦点を当てるかによって、
お店の評価は変わります。

「京菓子」というジャンルだけに絞ってしまえば、
の方が詳しいかもしれません。

そうだとしても、
食べる天才が25歳の時に世に問うたこの本を、
私は一生大切にし、何度も読み返すでしょう。

圧倒的に比較することの大切さを、
美味しかった感動を、
自分らしい表現で伝えることの大切さを、
来栖さんは教えてくださいました。

ただ、来栖さんの進化はここで止まりません。
現在では、評論活動を一切休止し、
今まで培った味覚と美意識を、
実際の店舗で提供しています。


詳しくは上記リンクの熱いメッセージをご覧ください。
そちらで提供されるモンブランがコチラ。
和菓子「きんとん」の技法が生かされたモンブランに、
見ただけで感動してしまいました。
なぜ、今まで誰も思いつかなかったのか?
食べなくても美味しさが伝わってきます。

来栖さんの今後から目が離せない。
そして、私たち和菓子職人も、
和洋問わず、
圧倒的に食べることを楽しむことで、
お客様の更なる感動に貢献したいものです。

【文責 宮澤 啓】

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2015年9月17日木曜日

『スイーツ・パッケージ・デザイン 洋菓子・和菓子の美しい包み方』 リンクアップ・編



お菓子の魅力ってなんだろう。

お菓子の魅力とは三種類ある、と私は思う。
大雑把に言えばそれは”味(一部は香り)、見た目、そしてパッケージ”
の三種類だ。
味や香りは感覚に訴えるものでお菓子の最も大事な要素だし、
見た目が綺麗であったり可愛くなければ消費者の心は動かない
(たまには素朴なお菓子もあるけれど、それはそれの良さがある)。
そして1番お菓子からは遠いようでいて、一番の決め手にもなりうるのが
お菓子を包む包材=パッケージだ。

お菓子を買う時というのは、何か目的がある。
誰かのお宅に伺う時、お祝いの品に、法事などの際、
旅行のおみやげなどその目的は様々だけれど、
どれもその場にあった色合いや質感のパッケージが大事になってくる。

旅行のおみやげで思い出すのは、自分は何と言っても
鎌倉の鳩サブレーだ。
あの明るい黄色地に白い鳩のパッケージは、一度見たら
そうそう忘れないだろう。

それから東京銘菓のひよ子(p74)もあのなんとも言えない
表情のひよこが描かれたパッケージが印象的で、
あのひよこの絵と立体的なひよこ型のおまんじゅうは
切っても切れないイメージとして結びついている。

パッケージは、それに包まれたお菓子の美味しさを
より一層鮮明なものにしてくれる。
それに、観光地で販売されているお菓子のパッケージは、
旅先から帰ってからその場所のことを思い出すのにも役立つ。

最近感心した旅先のお菓子にはこんなものがあった。
この本のp88,p89にも載っている
”かりんころんのかりんとう”は、そのアイデアに驚いた。
かりんころんのお店は浅草や鎌倉などの主要な観光地にあって、
様々な味のかりんとうを包むパッケージにその土地の
名物のイラストが描かれている。
しかもそのパッケージはシールなどもきれいに剥がせるようになっていて
広げればポスターのようにして壁に貼ることもできる。
それはまるで旅先で出会った景色をそのまま
家に持ち帰ることのできるおみやげだった。

さらには食べたことのないお菓子のパッケージには
それを食べる前のワクワク感を増幅させる力もある。

p72の”たねやのオリーブ大福”の包みがとても面白い。
一見、まるで本当に野菜か果物でも入っているのではないか?
と思わせるような麻袋に似せた紙袋に、
産地直送を意味する『FRAGILE』の文字が入ったシール。
外見からはとても和菓子が入っているとは思えない。
”大福にオリーブオイル”という斬新なお菓子に
ぴったりのユニークなパッケージだ。
これはまだ食べたことがないので次は是非
このパッケージを手に取ってみたい。

このようにお菓子の魅力を高めるパッケージが、銘菓と呼ばれる
お菓子それぞれに存在する。
本書にはこの他にも全国各地のお菓子のパッケージが紹介されている。
その中にはまるで宝石箱のようなパッケージのものや、
花火玉のような入れ物に入ったお菓子もあって、パッケージから
食べてみたいと思ったものがたくさんあった。
パッケージの魅力は、知れば知るほど広がっていくようだ。

【文責 加部 さや】


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2015年8月7日金曜日

『おやつのない人生なんて』 伊藤まさこ・著



「おやつのない人生なんて!!」

甘党(辛党も?)の人ならだれでも一度は
思ったことがあるんじゃないだろうか。
私もその中の一人。
「明日からあなたはおやつを食べてはいけません。」
なんて言われたらきっと酷くショックを受けるだろう。
おやつ好きの人たちにとって、おやつは三度の
食事とは違う大切な時間。
仕事や家事の合間だったり、勉強の休憩中だったり、
いつでもおやつの時間はちょっとした幸せを与えてくれる。

でも一言におやつと言っても何を食べているかは人それぞれだ。
小さい頃から食べ慣れているもの、流行りのスイーツ、
旅先でしか買えないお菓子など、その人の暮らしている環境や
好みによってきっとみんな色々なものを食べている。
もしかしたら食べているおやつを見たらその人の
人間性も分かって楽しいかもしれない。

そんな面白さが詰まった一冊がこの、伊藤まさこさんの
「おやつのない人生なんて」。
とある雑貨屋で見つけたこの本には”大人のおやつ事情”
が垣間見えて、思わずわくわくしてしまった。

おやつというからにはもちろん和菓子、洋菓子、
軽食といった類のものも含まれているのだけれど、
一人の人が好んで食べるおやつはどこか一貫していて
こんなところがお気に入りのポイントなんだろうなぁ、
と想像しながら読めるのもいい。

p60からの”あんみつブーム”のお話は和菓子好きとしては
気になるところ。たまにおやつのブームが来て、
続けざまに同じものを食べてしまうというのにも納得できる。
それにまだ日本各地に素敵な甘味処があるのがわかったので、
旅行に行った際にはぜひ訪れてみたい。

p84にはいつか必ず食べてみたいと思っている名古屋の
芳光のわらび餅が登場する。
思い浮かべただけで口に入れた瞬間のあの幸せがよみがえります
という言葉に、わらび餅の美味しさがすべて
詰まっているような気がする。

その他にも、どれも一度は食べてみたいおやつばかり。
伊藤さんのように日本中を飛びまわれるわけではないけれど、
近場からでもぜひ立ち寄ってみたいところ。
この本で紹介されているおやつのお店はどれも巻末に
情報が記載されているので、この本を携えながらおやつ巡りの旅、
なんていうのもひとつの楽しみ方になりそうだ。

【文責 加部 さや】


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伊藤まさこ・著 筑摩書房


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2015年7月30日木曜日

『和菓子人』 佐々木勝・著

その人の生き様が菓子に出る
菓子は人なり
師・佐々木勝の波乱万丈の半生記

初めて師匠のお菓子を食べたのは、
22歳の夏のことです。
女性の販売員が多い中、
このお店の販売員は皆男子でした。

師匠の腕と人柄を慕って、
全国から修業希望者が集まっているといいます。

人一倍不器用な私は、。
大学4年の夏になっても、
和菓子の道に進むべきかどうか迷っていました。
冷茶とともにだされた「水羊羹」。
凛とした気品を湛えた薄紫の色合い。
口に含むとすっと消えてしまう
儚いほどの口溶け。
食べ終わった後に、
小豆と和三盆の香りだけが、
上品に漂っています。

こんな水羊羹を食べたのは、
生まれて初めてでした。

「こんなお菓子を作れるようになりたい!」
数十軒の和菓子店を食べ歩いた私が、
もっとも憧れ、惚れ込んだのが、
菓匠京山・佐々木勝さんの菓子でした。

「すでに来年度の希望者は一杯」
とお断りされたのを、
頼み込んで弟子入りさせて頂きました。
先輩、後輩含めて10人の若者が、
ほとんど機械も使わず、
職人仕事でお菓子を作り上げてゆきます。

業界屈指の名人と一緒に仕事はできても、
お役に立てたと言うには程遠い状況。

何の仕事をしても師匠の半分以下。
師匠の仕事ぶりは段取りも含めて凄すぎて、
天才だからできるんだと在職中は思っていました。

そんな師匠が創業30周年、還暦の記念に、
この本を出版してくださいました。
前書きには、こうあります。
「菓匠京山在職中、一生懸命仕事に勉強に励んだ皆さんに、
師匠として何か贈りたいと思い六十年の歩みを本にしました。」
弟子へのエールを込めた一冊です。

読んで改めて感じたことは、師匠の天才ぶりではなく、
並はずれた苦労人であり、努力家だということです。

終戦直前の樺太。
漁師の4人兄弟の末っ子として師匠は生まれます。
生まれて数日で終戦となりますが、
ロシア軍の樺太進行で、
一家は命からがら北海道に逃げることに。

しかし、その際の怪我が原因で、
父上は36歳の若さで亡くなってしまいます。

女手ひとつで4人の子供を育てる母上。
そんな母を少しでも楽にしてあげたいと、
手伝いに奔走した少年期。

冬の通学は、
1m先も見えないほどの強烈な吹雪の日でも、
4kmの山道を休まず通い続けたと綴られています。

現代に生きる私達からしたら、
壮絶ともいえる幼少期を過ごしたことが、
師匠の精神と肉体を鍛え上げ、
底力となっていたのです。

和菓子の道に進んだことも、
才能があったからとか、なりたかったからではなく、
早く働いて母を楽にしてあげたい、
その一心からでした。

和菓子に関しても、
自慢話的なことはほとんどなく、
泣くほど怒られた失敗談まで、
隠すことなく語られています。

もともと真面目な努力家ではあった師が、
運命が変わるほどの大きな影響を受けたのは、
最初に出会った和菓子職人が、
「高山良介」さんであったこと。

P.37 すべてにおいて師匠以上の人に会ったことがない

この一文が佐々木さんのお人柄を表しています。
私も、佐々木さんを通して、
小樽の高山先生の技や心に触れている
と感じることがあるほどです。

本の中には、小樽の高山さんをはじめ、
たくさんの方から文章が寄せられています。
それらを読むほどに、
師の人間的魅力を再認識します。

さらに特筆すべきは、
具体的な数値、数量が克明に記録されている点です。

修業先「たちばな」さんの盛況ぶりは、
こう書かれています。

・お節句の柏餅はセイロ400枚、15,000個!
・人気商品パンセは1日10,000個製造!
・社長は当時32歳の若さ!
・作れば売れるウチは職人にとって楽な店だ!発言
・入社時14人だった従業員は翌年には倍の28人に

記録は多岐にわたり、
お世話になっていた時のお給料の金額から、
「京山」を開業するためにかかった具体的な費用、
その資金繰り、新装開店セールチラシの費用から、
具体的な売上げ、商品単価など、微細に渡ります。

また、普通の人なら書かないであろう、
新装開店直後のヒマな様子(妻と交代で昼寝)、
初めての講師体験の失敗談、
幼少期と青年期のマラソン秘話など、
恥と思う話でも隠さずに書いて下さっています。

奥様との恋愛、結婚のお話し、
結婚7年目で授かったお子様のお話し、
さらにその子供たちから父への手紙まで掲載されていて、
何度読んでも、胸が熱くなります。
まさに師匠の口癖である、
「その人の生き様が菓子にでる」
「菓子は人なり」
を実感できる書籍です。

修業時代の経験と、この書籍を通じて、
少しでも師匠の技と心を受け継ぎたいと思い、
何度も何度も読み返している、
心の燈台のような本です。


いい菓子を作ろうと思ったら、
人間を磨かなきゃいけない。
修業時代、何度も聴いた師匠の言葉。
この想いを菓子に込めて、
次代を担う若き職人とともに、
これからも精進を重ねたいものです。

【文責 宮澤 啓】

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『和菓子人』
佐々木勝・著 / ㈱明光企画制作

※ネットや書店では流通していません。
私は師匠から何冊か譲っていただいて、
新人さんへのプレゼントにしています。
本当に宝物です。


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2015年6月27日土曜日

『地元菓子』 岩菜晃子・著



この表紙の写真、何に見えますか?

実はこれ、和菓子の夏の風物詩ともいえる水饅頭。
福井県などの一部の地域では、水饅頭はこうして盃(うつわ)に入って
水に浮かべた形で販売されているのだそうだ。
注文すると、こうして直前まで冷やされた水饅頭を
つるりとすくって出してくれるという。
こんな形の水饅頭を食べたことがある人はどれくらいいるだろうか。

その土地にはその土地のお菓子がある。

たとえば、私の暮らしている群馬県の名物といえば
清月堂の旅がらすやガトーフェスタハラダのラスク、
伊香保温泉の湯の花まんじゅうなどが有名だろうか。
沼田のフリアンの味噌パンや多助の俵最中、
焼きまんじゅうなどが多くの地元の人から愛されているお菓子でもある。
群馬のお菓子は塩を入れたあんこや
味噌に代表するように、甘じょっぱい(甘辛い)味付けが特徴だ。
ただ私は専門学校へ入学するまでいつも食べていたあんこが
塩が入ったものだということを知らなかった。
こんな風に、その土地にはその土地なりの味付けや材料を使った
お菓子というものが日本各地に存在するようなのだ。

p12の謎12のコラムに書かれている”西日本の
お煎餅は玉子煎餅の謎”を読んでいると、
どうやら東日本ではお米を使った甘くないおせんべいが主流であり、
西日本では砂糖や卵を使った玉子煎餅が多いとのこと。
また、春に食べる桜餅が東と西で道明寺と長明寺に分かれている
(p71に日本全国の桜餅の分布図が載っています。これも必見!)のは
知っていたが、柏餅までもが違うとは驚きだった(p67)。

『人間誰しも自分が生きてきた環境で身につけたことが
世の常識だと思っている。しかしひとたび小さな世界を出れば、
その常識はいとも簡単に覆される。それは柏餅の
葉っぱひとつとってもそうだ。』(本文より)

前に一度、柏餅と名がつくのになんだかよく知らない
丸い葉っぱで包まれたものを食べたことがあった。
実はそれが四国や九州、関西地域で柏餅を作る際に
使われるサンキライという葉っぱだったそうなのだ。
どうしてサンキライをカシワと呼ぶようになったかは
詳しくはわからないそうなのだが、どうやら昔食べ物を置く葉のことを
かしわと呼んでいた所以で、食べ物を包む葉っぱを使う餅ということで
柏餅と呼ぶようになったとか。

それから、p74の”けいらん”というお菓子についてのお話も面白い。
白い餡入りのお餅に、色のついたお米が散りばめられている
というのがこのお菓子の基本スタイルのようだが、
見たことも聞いたこともなかった自分にはいまいち想像がつかないが、
姿の近いものとしては赤飯まんじゅうだろうか。
これもまた全国各地で、いろいろな名前、形で存在しているようで、
”いがもち”や”なるともち”というのもあるのだそう。

こんな風に、地域ごとに異なるお菓子というのも気になるところだ。
どこかに旅行した際、その土地ならではのお菓子
を探して歩くのも楽しいかもしれない。

【文責 加部 さや】


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『地元菓子』
若菜晃子・著 新潮社



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2015年5月29日金曜日

『まっちんのかんたん焼きおやつ』 町野仁英・著



おそるべし、まっちん!!

こちらは以前書評させていただいた”まっちん”こと
町野仁英さんの二冊目となるレシピ本。
一冊目の『まっちんのおやつ』が発売されてからおよそ
一年半後、ファンの皆さん待望の続刊が出た!

一冊目の『まっちんのおやつ』では、和菓子屋さんの定番の
どらやきからまっちんのセンスが光る個性派おやつまで、
50種類のレシピが紹介されていたのが、
今度はもっと、”毎日食べたくなるようなおやつ”に重点を置いた
レシピ集になった。

まっちんの作るものの特徴は、やっぱり何よりも
体にやさしい材料を使っているということ。
それからきちんとしたお店のような設備でなくとも、
家庭にあるような道具で作ることができるということ。
そして特に『~焼きおやつ』では一回の分量が
とても作りやすいものになっている事に感動した。

私も今回、この中で特に気になった一品を作ってみることにした。
まっちんのレシピの作りやすさを実感するために、
あえて自宅で家庭用のオーブンや家にある材料だけを使ってみる。
作ったのは、p74の”もなかシュー”。
名前についての詳しい説明はないけれど、
和菓子の最中のようにさくさくとしたシュー皮なのではないかと想像する。


奥に見えるのが『まっちんの~焼きおやつ』の写真。
普段和菓子ばかり作っている私でも、かなり似せて作ることが出来た。
材料もほとんど余すこと無く使い切ることが出来て、この配合に
辿り着くまでのまっちんの苦労が身に沁みる。
食べてみると食感はシュークリームと最中の中間くらいで、
さくさくと軽く、味も抜群。
こんなに簡単な材料や作り方で出来ていいの?と思うほどだ。
バターや生クリームを使わない素朴な味は、とてもやさしく
懐かしい味で、ほんとうに毎日でも食べたくなる。

ところでこのレシピではカスタードクリームに卵黄だけを使うため、
どうしても卵白が残ってしまう。
そこでページの下に目をやると”まっちんメモ”の文字が。
なにやらその余った卵白を使って
”ふわふわマフィン”が作れるらしい。

そこで家にあったココアを使って、ふわふわマフィン
のアレンジ品である”ココアカスタードマフィン(p43)”も作ることにした。
カスタードはシューで使ったため、今度はカスタードは抜きの
普通のココアマフィンにする。


こちらもレシピ通りに作ると30分もかからずに完成。
甘すぎずふんわりと柔らかい食感がおやつにピッタリで、
私のとても好きな味。
使う粉の種類を変えれば色々な味や食感の
マフィンを作ることが出来るようだ。
家でお菓子などを作る時につい余ってしまう材料のことまで
考えて一冊のレシピ本にしたまっちん。
そこに彼のこだわりが反映されている。

こんな風に作る人の心をつかみ、食べる人の心を魅了する
まっちんの”おやつ”。
そのファンは全国に渡り、着々と増え続けているようだ。
まっちん=町野さんが開催するおやつ会や
ワークショップも随時開催されているもよう。
次はぜひ私も参加してみたい。

【文責 加部 さや】


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『まっちんのかんたん焼きおやつ』
町野仁英・著 株式会社マイナビ



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2015年1月22日木曜日

『二郎は鮨の夢を見る』 デヴィッド・ゲルブ監督

生きる伝説と言われる鮨職人
その技と志が
親から息子達へ
師匠から弟子たちへと
伝承される職人仕事の教科書


「和菓子の本棚」に、和菓子でも本でもない
鮨職人の映画を登場させたことを、
まず、お詫びしたいと思います。

和菓子屋の繁忙期は朝が早いです。
毎朝3時に起きて、
作り立てのお菓子を9時には店頭に並べます。

心が折れそうになるほどの
疲労感に襲われないように、
毎朝、毎夕、通勤の車中でこのDVDを見ています。

そのたびに魂が震え立ち、
身体が気迫に包まれてゆきます。

この映画を撮影したのは、
撮影時26歳のNY生まれの青年です!!
まったく外国人が撮影したとは感じさせない
完璧なドキュメンタリーに仕上がっています。

NHKのプロフェッショナルと比べても、
映像の美しさ、BGMの素晴らしさ、
取材対象選定の的確さ、
全てに渡って上回っていると思います。
言葉の壁や人脈を考えたら、奇跡的です。

「情熱」
素晴らしい鮨職人を、
職人仕事の伝承を、
世界中の人々に紹介したいという、
熱い情熱が奇跡を起こしたんだと思うのです。

また、築地市場のマグロのセリの場面を、
冬場に一度断られたにも関わらず、
決してあきらめずに交渉を続け、
翌夏に許可を受けたことから、
冬しか見られない「タコ」のマッサージのシーン、
夏しか見られない「鰹」を藁で炙るシーンなど、
夏・冬両方の鮨の魅力を堪能することができています。

デイヴィッド・ゲルブ監督の情熱の源は、
NYメトロポリタン・オペラ総帥である父、
元NYタイムス編集局長で、現役の作家である祖父から
脈々と受け継がれたもの。
オープニングテーマのチャイコフスキーを奏でている、
ヤッシャ・ハイフェッツも血族というのですから驚きです

そんな境遇から、
生きる伝説と呼ばれる鮨職人の技と志を、
本人だけでなく、次代にどのように引き継いでゆくのかが、
この映画の重要なテーマとなっています。

長男の禎一(よしかず)さんは昭和34年生まれ。
撮影時は50代前半、
とっくに自分が主役でも不思議のない年齢です。
しかし、親父は伝説の鮨職人。
マスコミの取材は父親に集中します。

そんな中、この映画の撮影中も、
常に親父を立て、裏方に回り、
親父が最高の仕事ができるようサポートします。
仕事中は父親に敬語で指示を仰いでいます。

二郎さんのもとで16年間働き、
独立後三ツ星に称された水谷八郎さんも、
「せがれが可哀想だ」と心配しきりです。

しかし、デヴィッドさんは、
禎一さんこそ、真の主役だと見抜き、
撮影を重ねるのです。

築地への仕入れ、弟子への教育、
毎日の海苔焼き、鰹の藁火焼き、
すべて禎一さんの仕事です。

撮影中にミシュランの覆面調査員が
たまたま来店していたことが判明。
後日映像を解析すると、
握っていたのは禎一さんだったのです!

特典映像の音声解説で、
このエピソードを祖父に伝えたところ、
「鳥肌が立つほど感動した」
とデヴィッドさんは語っています。
二郎さんの技と志は確実に伝承されているのです!!

さらにもう一つ驚きのエピソードが。
映画の中では修行中の弟子達にも、
丁寧な取材が行われています。

一番弟子・中澤さんの、
「卵焼き」のエピソードは泣ける話しです。
撮影中に「そろそろ独立を」と話していたので、
その後がとても気になって検索してみたところ…

なんと、NYで独立しているではありませんか!!
驚くことに、結婚して4人の子持ち。
よく、修行や渡米に家族の理解があったなと、
映画と同じくらい驚きました。

この映画は、
単に伝説の職人の仕事と哲学だけでなく、
その技と心が次代に繋がっていくことを感じることができます。
日本人の誇りである職人仕事の文化が、
極めて美しい映像と音楽で紹介されています。

願わくば、「和菓子職人」の世界も、こうありたいものです。
私も微力ながら
次代への懸け橋になりたいと強く思います。

【文責 宮澤 啓】

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