2014年8月3日日曜日

『花雲水』 芝田清次・著

昭和33年、39歳で和菓子作りの経験ゼロで創業
昭和56年、62歳で全国百貨店和菓子売上の
一位、二位、三位を独占した、
「叶匠壽庵」創業者・芝田清次さんの半生記

本書は叶匠壽庵さんが人気絶頂の昭和60年に出版されました。
和菓子の関係者のみならず、
一般のお菓子ファンの方々まで、
「叶匠壽庵の成功の秘訣」
を知りたくて仕方がないタイミングです。

おそらく、多数の取材も受けていたことでしょう。
「あなたの成功の秘訣はなんですか?」

しかし、多くの読者の期待とは裏腹な序章から物語は始まるのです。
具体的なお話しは本編に譲りますが、
私なりの解釈では、以下の通りです。

「私が菓匠として経営者として、
至らないために、力不足のために、
実現できないことがいかに多い事か!
そんな痛み、悩み、苦しみを、
多くの方は理解して下さらない。
しかし私は、命ある限り、
自分のなすべきことが何かを探し、
挑戦し続ける覚悟です 」

要は、この本は成功者として語るのではなく、
挑戦者として語るんです、と序章で宣言されたのです。

知の泉がほとばしるような文章、
波乱万丈の人生に心底敬服して、
「生前に直接お話しを伺ってみたかった」
と思っていたところ、
父の本棚に講演会のビデオがあるではありませんか!

三脚もなく手撮りなので、見づらい動画ですが、
書籍に書かれていないことが語られていて貴重です。
その動画の中には、何かを必死で学ぼうとする、
若き日の父の姿もあります。

付箋を貼りながら再読したので、
前回読んだ時には気付かなかったこともたくさんありました。
特に、伊藤忠の越後正一社長との出会いから、
徐々にお客様が増え始め、
今までの生産体制では間に合わなくなる創業5年目。

最初の5年を支えた職人たちすべてを解雇し、
新人を一から育成するお話しや、
三顧の礼で拝み倒して職長として雇った職人を、
1年もせずに解雇したお話など、
今の自分の状況や心境と重なる部分もあり、
とても共感できました。

全編を貫くのは、深い教養と謙虚さと鋭い美意識です。
創作は鬼のように没頭し、
今までにない美しさで装い、
心からの謙虚さで接客応対を重ねます。

成功の秘訣は簡単にまねできるものではなく、
日頃の地道な精進の果てに、
かすかに見える希望です。

本書発行の時には、
日本を代表する名店に成長した叶匠壽庵さんでさえ、
バブル崩壊の時節には倒産の風評まで飛び出すのが、
商いの難しさだと思います。

『凡そ菓子職人として成就するには運不運というものにあらず』
から始まる「菓子の座一枚起請文」は、
和菓子職人の宝です。
折に触れて読み返したい大切な一冊です。

【文責 宮澤 啓】


余談ですが、本のタイトルにもなっていて、
以前は看板商品だった「花雲水」。
廃版は残念です。復刻を願っています。



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芝田清次・著 講談社



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