2013年9月12日木曜日

『季節をつくる わたしの和菓子帳』 金塚晴子・著


「菓子は人なり」
これは師・佐々木勝先生の口癖。
菓子はレシピで作るものではなく、
最終的には、その人の人柄、志が菓子にでる。

そんなこともあり、本を読むときは、
必ず著者プロフィールから、
お人柄を推察しつつ読んだりするわけです。

金塚さんの著者プロフィールを見ると
「レコード会社のディレクターとしてヒット曲の制作に携わる」
とあるのですが、具体的なことはあまり書かれていません。

意図的に秘密になさっているのかもしれませんが、
山口百恵さんの担当ディレクターだったはずです。
宇崎竜童さんとのエピソードも「へちま」さんのHPに
掲載されていた気がするのですが、
現在は見当たりません。
そこでちょっとだけ検索させて頂きました。

すると、山口百恵さんのスペシャル番組
「駆け抜けた青春」のゲストとして、
大物プロデューサー酒井政利さん、
ディレクター川瀬泰雄さん、
楽曲提供の宇崎竜童さん、阿木耀子さん、
などの超著名な方々とともにゲスト出演されていました。


百恵さんを陰日向に支え、
つねに良い意味で期待を裏切り、
期待を超える楽曲の提供で国民的大ブームを作り、
一時代を共に歩まれた方ではありませんか!

そんなディレクター時代を過ごされた金塚さんであれば、
ふとしたきっかけで飛び込んだ和菓子の世界においても、
注目し、応援する方がたくさんいたとしても、
まったく不思議ではありません。

製菓学校を卒業した直後にも関わらず、
ある料亭からデザート制作の依頼が入る、というエピソードも、
すべてはディレクター時代のご人徳と信頼の賜物と想像します。

「名のあるお店で買えばすむものを、あえて私に頼んで下さった」
その期待に応えるために、趣味で始めたはずの和菓子と
真剣に向き合い始めるのです。

代表的なエピソードは、
「10個の注文なのに20個も30個も作っては、
その中からきれいにできたものだけ選んでお持ちしていました。」

(「和菓子とわたし」より)


こんな真摯な仕事をされたら、心打たれないはずがありません。
評判は評判を呼び、ファンが次第に増えていったのも
自然なことだと思います。

業界の常識に縛られていないからこそ感じることのできる、
新鮮な視点を大切にした和菓子。
「スタンダードになり得て、しかも新鮮さのあるお菓子」
が当時の金塚さんの信条だったようです。

(「電子レンジとフードプロセッサーで和菓子ができる」より)


そんなお菓子作りに邁進し始めた金塚さんに、
今度はお菓子作りを教えて欲しい!
という依頼が舞い込むのです。

最初に頼み込んだのはご友人たち3人。
お菓子をお届けしていたお茶の先生の義妹さん、
そのお友達、その御親戚と、
ほんの数名でこじんまりと
「和菓子教室へちま」は始まりました。

その生徒さんから法事用のお菓子をお引き受けして、
そのお菓子が配られた中に本の編集者がタマタマいらしゃった。

「私、このお菓子を作った方の本を作りたい!」

そんな偶然から処女作「ほーむめいど和菓子」は誕生するのです。
金塚さんが和菓子の世界に飛び込んで10年程のことです。


出版された1997年、私は当時27歳。
和菓子に関する本は、基本的になんでも読むような本好きですが、
プロ向けの製法書は多数あったものの、
家庭でも、素人でも、本格的な和菓子が簡単に作れる!
というコンセプトの本は、読んだ覚えがなく、
衝撃を受けてすぐに購入したことを覚えています。

表紙の「花束」の煉切に、
金塚さんらしい意匠と色遣いが象徴されています。
また、単に作るだけでなく、
箱、ラッピング、紐にまで心配りがされた「贈るアイディア」は、
当時プロ向けのどんなレシピ本にもないものでした。

スタイリスト高橋さんの器の目利き、
日置さんの臨場感たっぷりの工程写真など、
今読み返しても新鮮さを失っていません。

また、古典的な定番菓子から、オリジナルな創作菓子まで、
レシピの種類の豊富さに圧倒されました。
しかも、仕事は丁寧で美しい。

この本をきっかけとして、
金塚さんの創作活動はたくさんの取材を受けることとなり、
和菓子教室の受講希望者も急増することに。

製菓学校で和菓子屋の跡取り息子くんたちが口々に、
「和菓子屋は夏はヒマでぶらぶらしている」というのを聞いて、
私も夏くらいへちまのように風に揺られてぶらぶらしたいな…
なんて由来で「へちま」を始めたのに、
金塚さんはへちまと正反対の盛況の中に身を置くこととなります。

「ほーむめいど和菓子」で発表した金塚さんの世界観に
いち早く注目したのはNHKさんでした。
2001年NHK教育テレビ「趣味悠々」で、
和菓子作りの楽しさ、魅力を伝える講師となるに至って、
金塚さんの人気と知名度は不動のものとなります。

本人の好む、好まざるとにかかわらず、
和菓子界を代表する職人の一人となったのです。

それから数々の雑誌、出版社から
和菓子作りの連載や書籍執筆の依頼が舞い込み、
それらに期待以上の誠実な仕事を重ね、
毎年1冊以上の超ハイペースで、
次々と新刊が刊行されるのです。
それはまるで涸れることのない泉のようです。

1997年に処女作を出版されてから2013年の現在に至るまで、
金塚さんの出版された書籍は15冊にものぼります。
(全集のような共著をのぞいて。)
この数は、和菓子関連のレシピ本著者の中で、
ダントツの一位だと思います。

教室での指導や、出版、テレビ出演を重ねる中で、
金塚さんの和菓子作りは磨きあげられていきます。

「家庭で、簡単に、失敗の少ない、手作りの和菓子」

その集大成ともいえる書籍が最新刊、
『季節をつくる わたしの和菓子帳』

もはや、処女作に見られるような
斬新さ、新鮮さは影をひそめています。
その代わり、もっと王道を行くレシピの構成です。
後世に残したい、伝統、歴史、物語のある菓子を、
毎月1品、カレンダーのように紹介するのです。

簡単に、失敗が少なく作ることはできるけども、
もっと良く作ろうと思えば、奥が深く、
上達の喜びを感じる難しさも持っている。

斬新な創作よりも、先人が育んだ和菓子の歴史的背景に
敬意を払うような文章が、素直に心に響き、胸を打ちます。

金塚さんの和菓子作りが洗練されたように、
スタイリストの高橋さんの器選びも、
日置さんの美しい写真も、
処女作から15年の時を経て、
当時と違う魅力を、
静寂の中の美とでも表現したいような、
穏やかな中にも力強い美しさを放っています。

この本は、歴史に裏打ちされた伝統的な和菓子を、
自分の手で、10個程度の少量で、失敗なく作りたい!
そんな和菓子ファンの座右の書となる珠玉の一冊です。

何らかの事情で、正誤表を入れざるを得なかったことは、
製作スタッフにとっては悔やまれることかもしれませんが、
そのおかげで、読者は金塚さんの息吹を感じるQ&Aを
たくさん読むことができました。

この本の制作に係わった全ての方々に
心からの敬意と感謝の気持ちを捧げます。

【文責 宮澤 啓】


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金塚晴子・著 東京書籍


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日本は、美しい国だ。
どこの国よりも四季の区別がはっきりしていて、
景色は移り変わり、四季折々の花が咲き乱れる。
春には満開の桜を、
夏には鮮やかな日差しと緑萌える木々を、
秋は真っ赤に色づいた紅葉を、
そして冬は一面の銀世界を、
いともたやすく思い起こすことが出来る。
日本人は昔から、その美しい季節を
歌や言葉にして残してきた。
日本人の感性を表したものはたくさんあるが、
その中でも和菓子はそれが顕著なものだと思う。

金塚晴子さんの『わたしの和菓子帳』には
四季それぞれの和菓子が載っている。
見慣れたものもあるし、知らないものもいくつかある。
春、夏、秋、冬と、季節にあった、
またその季節の情景を表したお菓子たちだ。

どのお菓子にも作り方の手順や
材料などが詳しく説明されていて、
初めて和菓子を作ろうとする人にも
とても分かりやすくなっている。
「和菓子って自分でも作れるものなの?」
と考えている人もたくさんいると思うが、
金塚さんのレシピはそんな不安をかき消してくれる。
難しい道具や技術の指定をしていないので、どんな人でも
お店で売っているような和菓子が作れるのだ。

そしてぜひ、この本でお菓子を作るならば
お菓子の写真一つ一つに添えられている
説明を読んでみて欲しい。
そこからは知らなかった和菓子の歴史と背景が見えてくる。

季節はもうすぐ夏。この本を手にとって、
開くのは夏の和菓子のページ。
それぞれの歴史を知りながら、今日の気分に
あったお菓子を探してみてはどうだろう。


【文責 加部 さや】



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