『和菓子の美』 10人の名匠による技

10人の名匠が次世代に伝えたい和菓子とは

全国和菓子協会・専務理事の藪光生さんが、
全国の菓匠の中から選びに選び抜いた10人の中に、
高崎の和菓子職人がいます。

「鉢の木 七冨久」石川久行さん。
この本は、石川さんから直接買い求めました。

ということで、今日は地元の和菓子職人しか知りえない、
石川久行さんのお人なりをご紹介しながら書評させて頂きます。

思い起こせば20年前。
菓匠京山での修業を終え故郷に帰りました。
25歳。
当時は微笑庵ではなく「みやざわ製菓」。
看板商品は「上州の田舎っぺ」。

そんな私にとって、
創業初代から三代にわたって、
天皇・皇后両陛下に生菓子を献上した和菓子店、
「鉢の木 七冨久」さんは雲の上の存在でした。

「どんな方があの素晴らしいお菓子を作っているんだろう?」
そんな方から、思ってもいないお誘いを受けるのです。

「和菓子職人の有志を募って
勉強会を始めるんだけど宮澤くんも来ない?」

『高崎菓子倶楽部』は平成8年7月に発足しました。
毎月1回、テーマを決めて集まります。
ただの親睦会と違うのは、必ず「宿題」があったところです。

平成9年5月に、テーマ「水羊羹」で集まりました。
その時の記録と写真がありますので紹介します。

【基本配合は同じで寒天を変えると食感はどう変わるか?】
・糸寒天、角寒天(宮澤)
・釜一番(石川)
・テレット(風間)
・ウルトラ寒天(清水)
・大和(山本)
【砂糖を変えると風味はどう変わるか?】
・トレハ2割(富樫)
・和三盆糖2割(小倉)
・塩少量(富澤)

このように、理科の実験のように科学的で地道な勉強会でした。
17年前、みやざわ製菓にて。みんな若い(笑)。

仲間の工場で交代で実施したのも新鮮でした。
だって、小規模零細とはいえ、なんとなくライバル心もあり、
それぞれの作業場は秘密にしておきたい気持ちもあったと思います。

以来、20年近くお付き合いさせて頂いていますが、
いつも謙虚であり、勤勉であり、よく働きます。

組合活動では会長職を歴任していますが、
自店のことを顧みないほど、
組合や地域への貢献を第一に行動されます。

菓子職人としても、ひとりの男性としても、
未だに憧れもし、尊敬しています。

そんな石川さん渾身の12品の中から、
代表する1作品だけ選ぶとしたらコチラ。
『水とり・水』
まずもって、今回の10人の名匠の中に、
石川さんのお師匠様のお店「塩芳軒」さんが含まれています。

塩芳軒さんで学んだ菓子を大切にしていればしている程、
究極の12品がかぶってしまうと思うのですが、
「後世に残したい120品」
という書籍の趣旨を考えると、
他の方が作ったお菓子と同じものを作るわけにはいきません。

そんな石川さんの作品には、京菓子の良さと、
関東・江戸菓子の美意識が絶妙に相まって、
独自の菓子に昇華しています。

水鳥の意匠は、作り手の美意識そのものが出ます。
私の師・佐々木勝さんも、10人の1人として登場し、
「めじろ」を作っていますが、まったく意匠が違います。

さらに、水鳥に添えられた有平糖の水。
伝説の名人、高家謙次さん直伝の有平細工を、
京都や東京から遠く離れた高崎で、
大切に守っていらっしゃいます。

鉢の木七冨久に代々伝わる美意識と、
京菓子の美の融合を感じました。

本に掲載された美しい菓子ばかりではなく、
亡き母上の介護のお話しや、
大切な奥さまやお子様との話し、
献身的に働くスタッフさんとの悪戦苦闘などなど、
生身の人間としての苦悩や喜びも、
間近で拝見させて頂いています。

『生き様が菓子にでる。菓子は人なり。』
師匠の言葉とともに、
美しい本から、菓匠の積み重ねた努力や、
次代へ伝えたい想いまで伝わってくる熱い一冊でした。

【文責 宮澤 啓】

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